「使ってください」より先に、聞くべきことがある
システムを全員に配って「使ってください」と言えば、現場に定着するのか? 同じ部署の二人が真逆の使い方をした現場を出発点に、紙を手放せなかった人が三ヶ月で自分から動き出すまでを、その人の「ここまでなら」を聞く順番として書きます。

全員に配ったのに、全員が使わなかった
業務システムが現場に残るかどうかは、画面の出来ではなく、一人ひとりがどこまで受け入れられるかで決まります。システムを現場に展開するとき、私たちはずっと同じやり方をしていました。説明会を開いて、操作を教えて、「あとはこれを使ってください」と言う。全員に同じ画面を配って、全員が同じように使いはじめる。そのつもりでいました。
うまくいきませんでした。使う人と、使わない人が、いつも出ました。おかしいのは、使わない人が必ずしもITの苦手な人ではないことです。パソコンは普通に使える。メールも送れる。それなのに、新しい画面だけは開かない。
画面の問題だと思い、機能を直し続けました。直しても、使わない人は使いませんでした。
見ていたのは「システム」で、「人」ではなかった
私たちがつまずいた原因は、システムの出来ではなく、目の前の一人を見ずに部署という単位で考えていたことでした。ある会社で、同じ部署の二人を並べて観察したことがあります。
一人は、渡した翌日からシステムを使っていました。自分でメモを取り、ショートカットを覚えて、翌週には「ここ、もっとこうなりませんか」と聞いてきました。もう一人は、一週間後も紙の帳票に手書きで記録を続けていました。嫌がらせではありません。「分かってはいるんですけど」と言いながら、元のやり方を手放せないでいました。
同じ会社、同じ部署、同じ業務。なのに、真逆の使われ方でした。
二人を並べて見たこのとき、私たちはようやく間違いに気づきました。「このシステムを、この部署に入れる」という単位で考えていたのです。部署の中にいる一人ひとりが、新しいやり方をどこまで受け入れられるのか、を見ていなかった。
「ここまでなら」は、人によって全然違う
受け入れられる幅は、人によって違います。これは能力の話ではありません。
長年のやり方を一切崩したくない人がいます。変えること自体が、その人には大きなストレスです。逆に、新しいものをすっと試せる人もいる。同じ「変化」でも、受け取り方は人の数だけある。全員に同じ画面を配って「使ってください」と言うのは、この違いを無視するということです。
機能を直しても、この問いを飛ばすと定着しない。
受け入れられる幅が狭い人に、いきなり全部を変えることを求めても、拒絶されるだけです。当然です。問題はその人ではなく、「全員に同じスタートを切らせようとした」私たちの側にありました。
入力一つから始めた
私たちが直したのは画面ではなく、始め方でした。全員を同じところから走らせるのをやめ、その人ができる一点から動かすようにしました。気づいてから、やり方を変えました。
まず、その人が「ここまでなら続けられる」と言える場所を聞くことにしました。全部は難しくても、この入力だけなら毎日できる、という人がいます。そこから始める。全部を一度に変えることではなく、その人のできる一つを動かすことが、現場にシステムが残る起点になると考えました。
紙の帳票を手放せなかった人も、「受注番号だけ、最初にシステムに打ってください」から始めると、三ヶ月で自分から「次、ここも移せませんか」と言ってきました。一つが動くと、次が見えました。全部を一度に変えようとしたとき、その人は動きませんでした。
定着は、全員に同じスタートを切らせることではない。
機能より先に、「ここまでなら」を聞く
私たちがシステムを届けるとき、いまは最初に一つだけ聞きます。「これを全部使えるようになってほしいんですが、今の仕事の中で、どこからなら始められそうですか」。
全員に同じ答えは返ってきません。それでいいと思っています。Aさんの「ここから」と、Bさんの「ここから」が違う。その違いを起点にして、それぞれの一つを動かしていく。揃えることが目的ではなく、その人の現場が今より少し楽になることが目的だからです。
私たちはこれまで、たくさんの「使われないシステム」を作ってきました。その失敗の大半は、機能の出来の話ではありませんでした。その人がどこまでなら受け入れられるかを、最初に聞いていなかっただけでした。
その人の「ここまでなら」を起点に、
一つずつ積み上げます。
だから私たちは、機能より先に。
お客様の現場に入るとき、私たちはまず、目の前のその人が何を変えられるかを聞きます。その「ここまでなら」が、定着の本当のスタートラインです。
よくあるご質問
- その人の「ここまでなら」は、どうやって聞き出すのですか。
- 私たちは、全員を集めた説明会ではなく、その人が普段どう仕事を進めているかを横で見せていただくところから始めます。いきなり「どこまでできますか」と正面から聞いても、本音はなかなか出てきません。手が止まる場面や、つい紙に戻ってしまう瞬間を一緒に確認しながら、その人が無理なく続けられそうな一点を探します。答えはこちらで決めず、本人が「これならできる」と言えるまで待ちます。
- 一人ずつ違うやり方で始めると、導入に時間も費用もかかりませんか。
- たしかに、全員へ一斉に同じ画面を配るより、最初の立ち上がりはゆっくりに見えます。ただ私たちの経験では、使われないまま放置される画面を作り直し続けるほうが、結局は高くつきます。一点が動いて定着すれば、次の一点はその人自身が広げてくれるので、あとは加速します。私たちは、一斉展開の費用を先に積むより、確実に残る一点から始める見積もりをお勧めしています。
- 人によってやり方がバラバラになると、現場の管理が難しくなりませんか。
- 揃えるのはやり方ではなく、データの持ち方だけです。私たちは、入り口をその人の「ここまでなら」に合わせて分けても、最後に集まる記録の形は一つに保ちます。ですからAさんが受注番号から、Bさんが別のところから始めても、集計や管理は同じ土台の上でできます。現場のスタート地点を揃えることと、管理を揃えることは別だと考えています。
- 「ここまでなら」から始めても、その一つすら動かない人がいたらどうしますか。
- その一つが重すぎたということなので、私たちはもっと小さく刻み直します。たとえば入力そのものが難しければ、まずは紙で書いた内容を後からまとめて渡してもらう形にして、システムに触れる量を減らします。動かない原因を本人の努力不足にはせず、こちらの区切り方の問題として捉え直します。無理に押し込むと元のやり方にも戻れなくなるので、その人が息をつける場所まで下げてから、もう一度小さく始めます。
技術は真似できる
定着させるノウハウが、弊社の強みです。
まずは相談してみる
現状を整理してみる、くらいの気持ちで大丈夫です。
見せていただいた作業を、動く画面にしてお返しします。