「使ってください」より先に、聞くべきことがある
同じ会社の同じ部署でも、新しいやり方を受け入れられる幅は一人ひとり違う。全員に同じ画面を配って「使ってください」と言う前に、その人の「ここまでなら」を聞かない限り、システムは現場に残りません。
全員に配ったのに、全員が使わなかった
システムを現場に展開するとき、私たちはずっと同じやり方をしていました。説明会を開いて、操作を教えて、「あとはこれを使ってください」と言う。全員に同じ画面を配って、全員が同じように使いはじめる。そのつもりでいました。
うまくいきませんでした。使う人と、使わない人が、いつも出ました。おかしいのは、使わない人が必ずしもITの苦手な人ではないことです。パソコンは普通に使える。メールも送れる。それなのに、新しい画面だけは開かない。
画面の問題だと思い、機能を直し続けました。直しても、使わない人は使いませんでした。
見ていたのは「システム」で、「人」ではなかった
ある会社で、同じ部署の二人を並べて観察したことがあります。
一人は、渡した翌日からシステムを使っていました。自分でメモを取り、ショートカットを覚えて、翌週には「ここ、もっとこうなりませんか」と聞いてきました。もう一人は、一週間後も紙の帳票に手書きで記録を続けていました。嫌がらせではありません。「分かってはいるんですけど」と言いながら、元のやり方を手放せないでいました。
同じ会社、同じ部署、同じ業務。なのに、真逆の使われ方でした。
このとき、私たちはようやく間違いに気づきました。「このシステムを、この部署に入れる」という単位で考えていたのです。部署の中にいる一人ひとりが、新しいやり方をどこまで受け入れられるのか、を見ていなかった。
「ここまでなら」は、人によって全然違う
受け入れられる幅は、人によって違います。これは能力の話ではありません。
長年のやり方を一切崩したくない人がいます。変えること自体が、その人には大きなストレスです。逆に、新しいものをすっと試せる人もいる。同じ「変化」でも、受け取り方は人の数だけある。全員に同じ画面を配って「使ってください」と言うのは、この違いを無視するということです。
機能を直しても、この問いを飛ばすと定着しない。
受け入れられる幅が狭い人に、いきなり全部を変えることを求めても、拒絶されるだけです。当然です。問題はその人ではなく、「全員に同じスタートを切らせようとした」私たちの側にありました。
入力一つから始めた
気づいてから、やり方を変えました。
まず、その人が「ここまでなら続けられる」と言える場所を聞くことにしました。全部は難しくても、この入力だけなら毎日できる、という人がいます。そこから始める。全部を一度に変えることではなく、その人のできる一つを動かすことが、現場にシステムが残る起点になると考えました。
紙の帳票を手放せなかった人も、「受注番号だけ、最初にシステムに打ってください」から始めると、三ヶ月で自分から「次、ここも移せませんか」と言ってきました。一つが動くと、次が見えました。全部を一度に変えようとしたとき、その人は動きませんでした。
定着は、全員に同じスタートを切らせることではない。
機能より先に、「ここまでなら」を聞く
私たちがシステムを届けるとき、いまは最初に一つだけ聞きます。「これを全部使えるようになってほしいんですが、今の仕事の中で、どこからなら始められそうですか」。
全員に同じ答えは返ってきません。それでいいと思っています。Aさんの「ここから」と、Bさんの「ここから」が違う。その違いを起点にして、それぞれの一つを動かしていく。揃えることが目的ではなく、その人の現場が今より少し楽になることが目的だからです。
私たちはこれまで、たくさんの「使われないシステム」を作ってきました。その失敗の大半は、機能の出来の話ではありませんでした。その人がどこまでなら受け入れられるかを、最初に聞いていなかっただけでした。
その人の「ここまでなら」を起点に、
一つずつ積み上げます。
だから私たちは、機能より先に。
お客様の現場に入るとき、私たちはまず、目の前のその人が何を変えられるかを聞きます。その「ここまでなら」が、定着の本当のスタートラインです。
一人では、会社は変えられない。
だから、一緒に変える。
まとまっていなくても構いません。
お話を伺い、一緒に整理するところから始めます。
まずは、お気軽にご相談ください。