コラム

DX人材は、採用するな

「DXを進めたいが人がいない」。その相談に、私たちは求人の話から入りません。足りないのは人材ではなく、今いる人の力が流れ出る穴のほうだからです。

エマルシア株式会社

まず、社内の「あの人」を見てください

「DXを進めたいけれど、できる人がいない」。経営者の方から、いちばん多く聞く言葉です。

正直に書きます。私たちも昔、同じことを言っていました。求人票をつくり、「ITに強い人」を探し、そして見つかりませんでした。半年経っても、一年経っても、来ない。採用できないことを、市場のせいにしていました。

でも、間違っていたのは市場ではなく、私たちの問いの立て方でした。

存在しない人を、探していた

あるとき、自分たちが書いた求人票を読み返して気づきました。「AIで速く開発できて、保守性も高く、最新のツールも使いこなせる人」。書いた本人は良い条件を並べたつもりでした。けれど、こんな人は市場にほとんどいません。速さと品質と最新性を一人で満たす人材を、相場の給料で採ろうとしていたのです。

求人票に書いた理想像は、現実の人ではなく、自分たちの「足りないもの」の寄せ集めでした。足りないものを全部ひとりに背負わせようとすれば、当然、誰も当てはまりません。

人材不足だと思っていたものの正体は、採用市場の問題ではありませんでした。

不足しているのは「人」ではなく「構造」

多くの会社には、すでに「あの人」がいます。

頼まれると断れない。問題を見つけると、放っておけずに自分で直してしまう。マニュアルにない作業を、いつの間にか巻き取っている。何でも屋、と呼ばれる人です。

この人がいるあいだ、現場はなんとか回ります。けれど、その仕事のやり方はその人の頭の中にしかありません。記録されず、引き継がれず、評価もされない。やがてその人は疲れ、ある日、静かに辞めていきます。そして会社は、回っていた理由を失って、初めて「人が足りない」と気づくのです。

つまり、人がいないのではありません。一人に依存した構造が、人を使い潰しているのです。これを採用で埋めようとすれば、新しく入った人がまた同じ「何でも屋」になり、同じように疲れて辞める。穴の空いたバケツに、水を足し続けているようなものです。

業務
属人化:あの人しか分からない

一人に集中した線を、ほどいて、配り直す。

私自身が、その「何でも屋」でした

これは外から眺めた分析ではありません。私自身の話です。

製造業で7年、ITで7年。どちらの現場でも、経営と現場の板挟みになり、間に落ちる仕事を全部拾ってきました。損な役回りを引き受けることが、当たり前になっていました。

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製造業(品質管理)
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IT(開発・推進)

両方の現場で、間に落ちる仕事を拾ってきた。

あるとき、自分がなぜ消耗しているのかを考えて、気づいたことがあります。私が腹を立てていたのは、人に対してではありませんでした。頑張りが記録されず、貢献が上に伝わらず、評価される仕組みがない——その「構造」に対して怒っていたのです。

製造業には、品質管理があります。品質管理とは、つきつめれば記録のことです。誰が、いつ、何をしたか。それを残すことで、信用を積み上げていく仕組みです。ところが同じ会社の中でも、製造以外の仕事には、その記録がほとんどありません。現場で誰かが拾い続けている仕事は、どこにも残らない。だから消える。

足りなかったのは優秀な人材ではなく、人の働きを記録し、信用に変える構造のほうでした。

記録とは、その人を型にはめることではない

ここで、誤解されたくないことがあります。

「記録する」「仕組みにする」と言うと、人を規格品のように扱う話に聞こえるかもしれません。マニュアル化して、誰がやっても同じにして、その人らしさを消していく。そういうイメージです。

私たちがやりたいのは、その逆です。

何でも屋の仕事には、その人にしかない段取りや勘が詰まっています。それを消すのではなく、その人のやり方のまま、その人の手柄として残す。記録とは、個性を平らにならすことではなく、見えなかった個性を、会社にとって見える価値に変えることです。

その人が休んでも回る。その人の工夫が、ちゃんとその人の評価になる。属人化を解くというのは、「あの人」を取り替え可能にすることではありません。「あの人」が安心して働ける土台をつくることです。

採用の前に、やるべきことがあります

だから私たちは、「人がいない」という相談に、求人の話からは入りません。先に、三つを見ます。

社内の「あの人」を特定する。現場を支える何でも屋は誰か。
その人の仕事を、頭の外に出す。やり方を記録し、属人化を解く。
貢献が経営に伝わる仕組みをつくる。頑張りが評価につながる流れを通す。

採用より先に、この三つ。

ひとつ、社内の「あの人」は誰か。何でも屋として現場を支えている人を、まず特定します。ふたつ、その人の仕事を、本人の頭の外に出す。やり方を記録し、見える形にして、属人化を解いていきます。みっつ、その貢献が経営に伝わる仕組みをつくる。頑張りが評価につながる流れを通します。

この三つが進むと、多くの場合、新しい採用は要らなくなります。足りなかったのは人手ではなく、今いる人の力が流れ出ていく穴のほうだったからです。穴をふさげば、同じ人数で会社はずっと楽になります。

そして、これは会社にとっての安心でもあります。新しい誰かが来てくれるかどうかに会社の先行きを賭けるのは、不安定です。来るかわからない人を待つより、すでにそこにいる人で固めるほうが、会社は揺れません。今いる人で回る構造は、いちばん壊れにくい構造です。

今いる人で回る構造が、
いちばん壊れにくい。

だから、採用の前に。

新しい人を探すより先に、今いる人の力を引き出す。これは妥協ではありません。会社のことをいちばん分かっているのは、外から来る誰かではなく、すでにそこで踏ん張っている人だからです。

私たちが、人から見る理由

私たちは、システムをつくる前に、人を見ます。「何を作れば業務が改善するか」ではなく、「この人の何が変われば、楽になるのか」。順番を、そう決めています。

自分たちが何でも屋として消耗し、構造に救われなかった経験があるからこそ、同じ場所で踏ん張っている人を、まず見たいと思っています。

「DX人材が採用できない」。その相談をいただいたら、私たちはきっと、こう聞き返します。

御社にも、頼まれると断れない「あの人」が、いませんか。

一人では、会社は変えられない。
だから、一緒に変える。

まとまっていなくても構いません。
お話を伺い、一緒に整理するところから始めます。

まずは、お気軽にご相談ください。

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