DX人材は、採用するな
DX人材が採用できないのは、市場のせいなのか? 半年求人を出しても採れなかった私たちが、採用の前に見る三つと、今いる人で会社が回る構造の作り方を書きます。

まず、社内の「あの人」を見てください
DXを進めたいのに人がいない——私たちは、その答えを採用市場ではなく社内に探します。足りないのは人材ではなく、今いる人の力を記録し、評価する構造のほうだからです。
「DXを進めたいけれど、できる人がいない」。経営者の方から、いちばん多く聞く言葉です。
正直に書きます。私たちも昔、同じことを言っていました。求人票をつくり、「ITに強い人」を探し、そして見つかりませんでした。半年経っても、一年経っても、来ない。採用できないことを、市場のせいにしていました。
でも、間違っていたのは市場ではなく、私たちの問いの立て方でした。
存在しない人を、探していた
採れなかった本当の原因は、採用市場ではなく、私たち自身が書いた求人票のほうにありました。
あるとき、自分たちが書いた求人票を読み返して気づきました。「AIで速く開発できて、保守性も高く、最新のツールも使いこなせる人」。書いた本人は良い条件を並べたつもりでした。けれど、こんな人は市場にほとんどいません。速さと品質と最新性を一人で満たす人材を、相場の給料で採ろうとしていたのです。
求人票に書いた理想像は、現実の人ではなく、自分たちの「足りないもの」の寄せ集めでした。足りないものを全部ひとりに背負わせようとすれば、当然、誰も当てはまりません。
人材不足だと思っていたものの正体は、採用市場の問題ではありませんでした。
不足しているのは「人」ではなく「構造」
多くの会社には、すでに「あの人」がいます。
頼まれると断れない。問題を見つけると、放っておけずに自分で直してしまう。マニュアルにない作業を、いつの間にか巻き取っている。何でも屋、と呼ばれる人です。
何でも屋がいるあいだ、現場はなんとか回ります。けれど、その仕事のやり方はその人の頭の中にしかありません。記録されず、引き継がれず、評価もされない。やがてその人は疲れ、ある日、静かに辞めていきます。そして会社は、回っていた理由を失って、初めて「人が足りない」と気づくのです。
つまり、人がいないのではありません。一人に依存した構造が、人を使い潰しているのです。これを採用で埋めようとすれば、新しく入った人がまた同じ「何でも屋」になり、同じように疲れて辞める。穴の空いたバケツに、水を足し続けているようなものです。
一人に集中した線を、ほどいて、配り直す。
私自身が、その「何でも屋」でした
属人化の話は、外から眺めた分析ではありません。私自身の話です。
製造業で7年、ITで7年。どちらの現場でも、経営と現場の板挟みになり、間に落ちる仕事を全部拾ってきました。損な役回りを引き受けることが、当たり前になっていました。
両方の現場で、間に落ちる仕事を拾ってきた。
あるとき、自分がなぜ消耗しているのかを考えて、気づいたことがあります。私が腹を立てていたのは、人に対してではありませんでした。頑張りが記録されず、貢献が上に伝わらず、評価される仕組みがない——その「構造」に対して怒っていたのです。
製造業には、品質管理があります。品質管理とは、つきつめれば記録のことです。誰が、いつ、何をしたか。それを残すことで、信用を積み上げていく仕組みです。ところが同じ会社の中でも、製造以外の仕事には、その記録がほとんどありません。現場で誰かが拾い続けている仕事は、どこにも残らない。だから消える。
足りなかったのは優秀な人材ではなく、人の働きを記録し、信用に変える構造のほうでした。
記録とは、その人を型にはめることではない
私たちが記録にこだわるのは、見えなくなっていた一人ひとりの工夫を、会社の価値に変えるためです。
ここで、誤解されたくないことがあります。
「記録する」「仕組みにする」と言うと、人を規格品のように扱う話に聞こえるかもしれません。マニュアル化して、誰がやっても同じにして、その人らしさを消していく。そういうイメージです。
私たちがやりたいのは、その逆です。
何でも屋の仕事には、その人にしかない段取りや勘が詰まっています。それを消すのではなく、その人のやり方のまま、その人の手柄として残す。記録とは、個性を平らにならすことではなく、見えなかった個性を、会社にとって見える価値に変えることです。
何でも屋が休んでも回る。その人の工夫が、ちゃんとその人の評価になる。属人化を解くというのは、「あの人」を取り替え可能にすることではありません。「あの人」が安心して働ける土台をつくることです。
採用の前に、やるべきことがあります
私たちは、「人がいない」という相談に、求人の話からは入りません。先に、三つを見ます。
採用より先に、この三つ。
ひとつ、社内の「あの人」は誰か。何でも屋として現場を支えている人を、まず特定します。ふたつ、その人の仕事を、本人の頭の外に出す。やり方を記録し、見える形にして、属人化を解いていきます。みっつ、その貢献が経営に伝わる仕組みをつくる。頑張りが評価につながる流れを通します。
先の三つが進むと、多くの場合、新しい採用は要らなくなります。足りなかったのは人手ではなく、今いる人の力が流れ出ていく穴のほうだったからです。穴をふさげば、同じ人数で会社はずっと楽になります。
そして、これは会社にとっての安心でもあります。新しい誰かが来てくれるかどうかに会社の先行きを賭けるのは、不安定です。来るかわからない人を待つより、すでにそこにいる人で固めるほうが、会社は揺れません。今いる人で回る構造は、いちばん壊れにくい構造です。
今いる人で回る構造が、
いちばん壊れにくい。
だから、採用の前に。
新しい人を探すより先に、今いる人の力を引き出す。これは妥協ではありません。会社のことをいちばん分かっているのは、外から来る誰かではなく、すでにそこで踏ん張っている人だからです。
私たちが、人から見る理由
私たちは、システムをつくる前に、人を見ます。「何を作れば業務が改善するか」ではなく、「この人の何が変われば、楽になるのか」。順番を、そう決めています。
自分たちが何でも屋として消耗し、構造に救われなかった経験があるからこそ、同じ場所で踏ん張っている人を、まず見たいと思っています。
「DX人材が採用できない」。その相談をいただいたら、私たちはきっと、こう聞き返します。
御社にも、頼まれると断れない「あの人」が、いませんか。
よくあるご質問
- 属人化を解いて仕組みにするのに、どれくらいの期間と費用がかかりますか。
- 私たちはまず、社内の誰が現場を支えているかを見て、その人の仕事のどこを記録に残すかを決める期間を、二週間から一か月ほどいただきます。最初に一律の金額を出さないのは、その人が抱えている仕事の幅によって手間が大きく変わるからです。読み終えた段階で、どこまでを記録して仕組みにするかを、費用と一緒にお出しします。小さな一業務から始めて、回ることを確かめてから広げる進め方もお勧めしています。
- 記録するあいだ、頼りにしている「あの人」の負担が増えて、現場が止まりませんか。
- 記録は、その人に新しい書類仕事を背負わせる作業ではありません。私たちが横について、ふだんの段取りや判断の理由を聞き取り、こちらで形に残していきます。本人には、いつもどおり仕事をしながら、なぜそうするのかを言葉にしてもらうだけです。手を止めてマニュアルを書いてもらうわけではないので、現場は動いたまま進められます。
- 今いる人で固めると、新しい技術や外の知見が入らず、いずれ行き詰まりませんか。
- 私たちは、外の知見をまったく入れないとは考えていません。今いる人の力が流れ出る穴をふさいだうえで、足りない専門性だけを外から借りる順番をお勧めしています。先に採用で穴を埋めようとすると、入った人がまた同じ何でも屋になって消耗します。土台が整ってからのほうが外の技術も定着しやすく、新しく採る場合も何を任せるかがはっきりします。
- 頼りにしていた「あの人」が、もう辞めてしまった後でも間に合いますか。
- 間に合います。その人がいたころに何が回っていたのかを、残った記録や周りの方への聞き取りから、私たちがたどり直します。完全に元どおりにはならなくても、どこが抜けて現場が苦しくなっているかは見えてきます。そのうえで、次の誰かに同じ負担が集中しない形に組み直します。辞めてから相談をいただくことも珍しくないので、遅すぎるということはありません。
技術は真似できる
定着させるノウハウが、弊社の強みです。
まずは相談してみる
現状を整理してみる、くらいの気持ちで大丈夫です。
見せていただいた作業を、動く画面にしてお返しします。