コラム

完璧なシステムほど、現場から遠ざかる

品質管理システムを自作すると、なぜ現場は使わないのか? VBAとAccessで八万行、二十画面を組み上げた自信作が「分かりにくい」と拒まれた理由を、作った側から書きます。

エマルシア株式会社

8万行の自信作に、現場は「分かりにくい」と言いました

私たちは、システムの良し悪しを、機能の多さや記録の完璧さでは測りません。製造業のDXの話は、たいてい「どんなシステムを入れるか」から始まります。私たちは、逆のところから来ました。作る側として、手痛く失敗した経験があるからです。

前職の化粧品工場で、品質管理のシステムを一人で書いたことがあります。VBAとAccessで、約8万行。画面は20、モジュールは53個、データベースは8本、テーブルは60を超えました。AIなどない時代です。本業の品質管理をやりながら、合間に組み上げました。製品標準書の変更履歴、原料データベース、配合比、抜き取り検査、受入検査、生産指図から出荷まで。化粧品GMPに対応した記録が、すべて残る。我ながら、いいものができたと思っていました。

八万行の自信作を前に、現場は言いました。「分かりにくいから嫌だ」。結局、ほとんど使われませんでした。システムが使われない理由は、機能が足りないことではありませんでした。

0万行
VBAコード
0画面
フォーム
0
モジュール

本業の合間に、合間で組み上げた。

遠回りして、作り込んだ

私は五年ものあいだ、記録を貯める向きを逆にしたまま組んでいました。そもそもの始まりは、Excelでした。

前職でGMPを学び、品質管理という仕事が面白くなりました。統計も含めて、これは現場を良くできると思いました。だからまず、Excelで仕組みを作りました。データベースなど知りませんから、シートにA4の帳票を作り、そこへ記録していく。統計を取りたいので、その帳票から数字を別の表へ転記する。そういう仕組みでした。

ある日、向きが逆だと気づきました。データベースに記録を貯めて、そこから帳票を出すのが正しい。私は、逆をやっていました。気づいたのは、五年目です。そこからユーザーフォームを使えばアプリのように作れると考え、データベースと画面を組み合わせた、ソフトウェアらしいものを初めて作りました。8万行は、その延長線上にあります。遠回りでした。

現状解決Excel帳票:転記してから集計データベース:記録から帳票を出す

向きを間違えたまま、五年走っていた。

つまり私は、誰よりも作り込みました。GMPの知識も、統計も、正しい設計の向きも、苦労して身につけました。それでも、現場には届きませんでした。

作り込むほど、現場から遠ざかる

システムは、機能を足すほど良くなるのではなく、現場の動作を減らすほど良くなります。品質管理を突き詰めた人間が、なぜ「作り込むな」と言うのか。矛盾に聞こえるかもしれません。けれど、現場に拒まれた理由を掘ると、答えはそこにありました。

「分かりにくい」の正体は、機能不足ではありませんでした。現場の人が一回入力するまでに、こちらが余計な前動作を要求していたことです。コピーして、別の場所へ転記して、それから入力する。作った本人は気づかない、その前動作の多さが、現場では決定的に嫌われていました。

ここで効いたのが、ほかでもない品質管理の発想でした。製造現場では、人が同時にできるのは二動作までと考えます。三つ目を要求した瞬間、ミスが出る。だから工程を設計するときは、動作の数を削る。機能を盛ることではなく、動作を減らすことが品質なのです。私が作り込んだシステムは、機能として完璧に近づくほど、現場の動作を増やしていました。完璧であろうとするほど、現場から遠ざかっていたのです。

気づいてから、作り直しました。現場はマウスを前提にできないので、タブレットにして、指で押せるようボタンを大きくしました。入力のたびに電卓が出るように、という無茶振りに応えて電卓も自作しました。標準のカレンダーは指には小さすぎたので、大きく作り直し、押すと光るようにしました。見た目のためではありません。現場の動作を、一つでも減らすためです。

「作れば使われる」という思い込み

作れば使われる、と私自身がいちばん強く信じ込んでいました。それでも、定着はしきりませんでした。

正直に言えば、私はずっと勘違いしていました。記録がきっちり残るシステムさえ付ければ、すべてうまくいくと思い込んでいたのです。GMPを学び、統計の取れる仕組みを組んで、これで現場は良くなるはずだ、と。

世間の常識
きれいな記録システムを作れば、現場は回る
製造業の当たり前
現場で使われて、はじめて価値になる

図面の上で完璧でも、ラインで回らなければ不良品と同じ。

作ったものが、使われるとは限らない。当たり前のことに、8万行を書き終えてから気づきました。しかも完成を前にして、次に浮かんだのは「これ、どうやって保守しよう」でした。一人で書いた8万行は、一人でしか直せません。記録は残せても、残せる仕組みにはなっていなかったのです。完璧に作り込むほど、それは作った一人だけのものになり、現場の手から離れていきます。

製造業の当たり前を、ITに持ち込む

八万行を書いて現場に使われなかった失敗が、私たちの原点です。だから私たちは、製造業の当たり前を、そのままIT業界に持ち込むことにしました。

製造業では、図面の上で完璧でも、ラインで回らなければ不良品と同じです。良いものを作っただけでは足りず、現場で使われて、はじめて価値になる。この基準を、私たちはシステム開発にそのまま当てています。

現場の人が、いつもの動作のまま使えるか。
前動作が増えていないか。
作った人がいなくなっても、直し続けられるか。

機能の数より先に、見る三つ。

だから開発のとき、最初に見るのは機能の数ではありません。現場の人が、いつもの動作のまま使えるか。前動作が増えていないか。作った人がいなくなっても、直し続けられるか。

完璧な設計図より、現場で減らせた動作の数を、私たちは信じています。製造業のDXがうまくいかないとき、原因はたいてい技術ではありません。現場の動作を見ずに、機能を足してしまうことです。私たちは、それを8万行かけて、身をもって失敗しました。だからいま、お客様の現場では、図面の上ではなく、現場で測ります。

完璧な設計図より、
現場で減らせた動作の数を信じる。

図面の上ではなく、現場で測る。

現場で測ることが、作る側で一度つまずいた私たちの、いちばんの強みだと考えています。

よくあるご質問

現場の動作を見て測る工程には、どれくらいの期間と費用がかかりますか。
私たちはまず、現場の人がふだんどんな順番で手を動かしているかを見せていただく時間を、二週間から一か月ほどいただきます。この期間に、何を新しく作るか、あるいは何も作らずに今の道具を直すだけで済むかが決まります。私たちは最初に一律の金額を出しません。現場で何が起きているか分からないうちに出した見積もりは、後で必ずずれるからです。見終えた段階で、作る案と直す案を、それぞれの費用と一緒にお出しします。
高い費用をかけたのに現場に使われていないシステムが、すでに社内にあります。作り直すしかないですか。
作り直すとは限りません。まず私たちは、現場の人がその画面のどこで手が止まるかを、実際に操作していただきながら見ます。多くの場合、つまずきの原因は機能ではなく、入力までに挟まる操作の数なので、そこだけを削れば使われ始めることがあります。溜まった記録やデータはできるだけ活かし、全部を捨てる前に、動作を減らす直し方から検討します。
製造業以外の会社でも、この考え方は通用しますか。
通用すると考えています。前動作を減らすという発想は、機械や薬品を扱う現場だけのものではありません。事務でも店舗でも、一回の入力までに人が何度もマウスを持ち替えたり、別の画面を開いたりしていれば、そこには削れる動作があります。私たちは業種を問わず、まず現場の人の手の動きを数えるところから始めます。
作ってもらったシステムを、結局その会社の誰も直せなくならないか心配です。
私たちは、作り終えることよりも、作った後に別の人が直せる状態でお渡しすることを先に決めます。誰がどこをどう直すのかを設計の段階で取り決め、その手順を残してからお渡しします。一人で八万行を書いて、結局一人でしか直せなくなった失敗を、私たち自身がしているからです。担当の方が変わっても現場が止まらないことを、私たちは納品の条件だと考えています。

技術は真似できる
定着させるノウハウが、弊社の強みです。

Q1 / 4あと 4 問

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