SaaSは、死んだのか
「まずは定番のクラウドサービスを」と勧めてきた私たちが、その経済前提の崩れに気づいた話。SaaSが終わるとしたら、機能が劣るからではなく、標準化という論理の寿命が来るからです。
入れたのに、楽にならなかった
「まずは定番のクラウドサービスを入れましょう」。私たちも、以前はそう勧めていました。
導入は早い。月額で始められる。みんなが使っている。安心の材料はそろっています。けれど、入れたあとに現場が楽になった会社ばかりではありませんでした。画面は増えたのに、手作業は減らない。入力はするのに、その数字は何にも使われない。そういう光景を、何度も見てきました。
なぜこうなるのか。それを考えるには、「SaaSとは、そもそも何だったのか」までさかのぼる必要があります。
SaaSの正体は、製造業の標準化でした
私たちは製造業の出身です。だから、SaaSという仕組みの正体が、よく見えます。
SaaSの本質は「みんなで良いものを共有して、安く使う」こと。これは新しい思想ではありません。製造業がずっとやってきた標準化——属人化をなくし、誰がやっても同じ品質になるように、やり方を一つにそろえる——という発想を、そのままソフトウェアに移したものです。
標準化には、はっきりした経済的な根拠があります。「同じものを、たくさんの会社に売る」から、開発費が薄く割れて安くなる。一社ごとに作るより、共通の型を共有したほうが得をする。この前提があって初めて、SaaSは成り立っていました。
SaaSの経済は、「共有が成り立つ」前提で動いている。
AIが壊したのは機能ではなく、経済の前提でした
ここに、AIが入ってきました。
よく語られるのは「AIで簡単なものは作れる」という話です。でも、本当に効いているのは、もっと根の部分です。AIは、一社ごとの事情に合わせた個別のものを、低いコストで作れるようにしました。
これが何を意味するか。「同じものを多数で共有するから安い」という、標準化の経済的な根拠そのものが崩れた、ということです。個別最適が安く手に入るなら、わざわざ自社に合わない共通の型に、自社の業務を曲げて合わせる理由がなくなります。
SaaSが終わるとしたら、それは機能が劣るからではありません。それを支えていた経済の構造が、寿命を迎えるからです。
私たちも、「標準だから安心」で勧めていました
これは外からの評論ではなく、自分たちへの反省です。
かつての私たちは、「業界標準ですから」「みんな使っていますから」という言葉で、サービスの導入を勧めていました。けれどその裏で、いちばん大事な問いを飛ばしていました。「この会社は、そもそも何を解決したいのか」という問いです。
問いを立てずに手段だけ入れると、導入したという事実だけが残ります。「DXをやっている」というアリバイにはなる。でも、現場は楽になっていない。使われないライセンスや重複したツールにSaaS予算が消えているという報告は珍しくありません。ツールが悪いのではありません。問いを立てずに入れた結果が、数字になって表れているだけです。
SaaSが生きる場所、死ぬ場所
では、すべてのSaaSをやめるべきか。それは違います。主語を割れば、答えは出ます。
ひとつは、正しさを誰かが保証し続けなければならない領域。税務や労務がこれにあたります。法律で正解が一つに決まっていて、間違いが許されず、法改正への追従コストも高い。ここは全社共通の悩みですから、標準化の経済が今も生きています。専門のサービスに任せたほうが合理的です。実際、私たちが会計や労務のソフトに払っているのは、使い勝手ではありません。「このやり方は法律に準拠している」という、正しさの保証です。
もうひとつは、会社のコア業務。受注のしかた、現場の段取り、品質の見方。これらは会社ごとに違っていて、その違いこそが競争力です。会社の個性そのものです。ここに「標準」を当てると、個性を消すことになります。コア業務は、共通の型に合わせるのではなく、自社に合わせて作るべき領域です。
どちらが合理的かは、領域によって変わる。
「死んだのか」ではなく、線を引く力
製造業から来た私たちは、標準化が効く場所と、効かない場所の違いを、身体で知っています。標準化は、変わってはいけないものを守るときには正義です。けれど、変わるべきものに当てはめると、変化を止める足かせになります。
だから私たちは、ツールの話から入りません。「まず何を解決したいのか」を、一緒に言葉にするところから始めます。残すべき標準と、自社で作るべき個性。その線を引くことが、流行に振り回されず、今いる人が安心して動ける構造への、いちばん近い道だと考えています。
「とりあえず定番を入れる」時代は、静かに終わろうとしています。問われているのは、どのサービスを選ぶかではなく、自社の何が標準で、何が個性なのか。それを見極める力のほうです。
どのサービスを選ぶかではなく、
自社の何が標準で、何が個性なのか。
線引きが、最初の仕事です。
一人では、会社は変えられない。
だから、一緒に変える。
まとまっていなくても構いません。
お話を伺い、一緒に整理するところから始めます。
まずは、お気軽にご相談ください。