コラム

言われた通りには、作らない

「言われた通りに作れば失敗しない」は本当か? 画面を見せて三か月進めた案件で「全然違う」と言われた私たちが、要望どおりではなく本当の困りごとから作りはじめる理由を書きます。

エマルシア株式会社

言われた通りに作れば、間違いないと思っていた

お客様の言葉をそのまま形にしても、本当に欲しかったものには届きません。私はそれを、いくつもの失敗から学びました。独立して、AppSheetというツールで業務アプリを作る仕事を受けていたころの話です。

当時、私はこう考えていました。お客様に言われた通りに作れば、間違いはない。要望を正確に聞いて、その通りに形にする。それが誠実な仕事だと思っていました。

見せているのに、「最後に違う」と言われる

画面を見せながら進めても、それだけで相手の望みを掴めるわけではありません。進捗の確認と、本当に欲しいものの合意とは、別のことだからです。

でも、そうはなりませんでした。

要望を聞き、画面を見せながら進めているのに、完成間際になって「思っていたのと違う」と言われる。一度や二度ではありません。何度も、同じことが起きました。なかには、返金で終わった案件もあります。

ある案件では、最初に社長が「やりたいこと」を話してくれました。あとは現場に任せる、という進め方でした。現場の声を聞き、言われた通りに作り、画面も見せながら進めたつもりでした。

三か月後、社長に見せたとき、「全然違う」と言われたのです。

振り返ると、誰も社長の欲しいものを把握していませんでした。現場も、私も、把握する気すらなかった。社長が最初に話したことを、そのまま仕様だと思い込んでいたからです。

あとから分かったのは、社長自身も、自分が正解だとは思っていなかった、ということでした。言葉にしたものは出発点であって、ゴールではなかった。本当に欲しかったのは、言われた通りの実装ではなく、提案だったのです。

「言った通りに作ったのに」と思っていた

聞いた通りに作れたことは、お客様にとっては何の意味もありませんでした。正直、最初は納得できませんでした。ちゃんと聞いた通りに作ったのに、なぜ違うと言われるのか。

でも、あるとき気づきました。それは、ただの言い訳だと。お客様が欲しいのは、「言った通りのもの」ではありません。「解決してくれるもの」です。その二つは、似ているようで、まったく違うのです。

お客様が欲しいのは、「言った通りのもの」ではなく、「解決してくれるもの」です。

「言われた通り」は、実は楽なんです

「言われた通りに作る」ことには、作り手にとって都合のいい仕組みがあります。

言われた通りに作れば、もし違っても「ご要望通りに作りました」と言える。責任は、要望を出した側に残る。つまり「言われた通りに作る」というのは、いちばん安全で、いちばん楽な逃げ道なのです。当時の私は、その逃げ道に立っていました。

世間の常識
言われた通りに作れば、責任は果たしている
製造業の当たり前
言われた通りに作るのは、責任からの逃げだった

仕事を、「解決してくれるものを作る」に変えた

「言われた通りに作る」が逃げだと気づいてから、自分の仕事の定義を変えました。

「言われた通りに作る」のではなく、「解決してくれるものを作る」。要望は、いったん受け止めます。でも、その通りに手を動かす前に、その奥にある本当の困りごとを、こちらから掴みにいく。お客様が最初から完璧に言葉にできるとは限りません。だからこそ、それを掘り当てるのが、私の側の仕事です。掴めなかったら、それは私の力不足。そう考えるようにしました。

私の仕事は、言われた通りに作る解決してくれるものを作る

とはいえ、心がけだけではできません

「解決してくれるものを掴む」は、意識するだけでできることではありませんでした。まず私がやったのは、コンサルティングを学び直すことです。

正直に言うと、それまでの私は、コンサルタントという人たちを、少し見下していました。口ばかりで、自分では作れない人たち。そう思っていたのです。でも、学び直してみて、その見方が間違っていたと知りました。彼らには、彼らにしかできない技術がありました。

私が学んだ中で、もっとも響いた行動を、一つだけ。それは、お客様自身に、「どうしたいか」を言葉にしてもらうことでした。こちらが正解を当てにいくのではなく、相手が自分の望みを、自分の言葉で掴めるように導く。これが、いちばん難しく、いちばん効くのだと分かりました。

掴むのは、要望ではなく「その会社らしさ」

ただ質問すればいいわけではありません。その答えから、その人が、その会社が、何を大事にしているのか。これから、どんな組織になっていきたいのか。そこまで掴みにいきます。

会社は、合理的な答えだけを求めているわけではありません。譲れないこだわりがある。そして、そのこだわりの部分にこそ、その会社らしさがあり、強みがあります。

システムを作りはじめたころの私は、「属人化は悪だ」と思っていました。人に依存する部分は、消すべきものだ、と。でも今は、逆に考えています。そのこだわりや、属人的な部分こそが、その会社の価値なのだと、学び直して、ようやく分かったからです。

だから去年からは、私だけでなくチームも一緒に、勉強会やワークショップを重ねてきました。すると、商談が進み、開発に入る前の段階が、驚くほどスムーズになったのです。

だから私たちは、「言われた通り」を納品しません

私たちがお客様と最初にやるのは、要望を聞いて、その通りに見積もることではありません。その要望が、どこから来ているのか。本当に困っていることは、何なのか。そこを一緒にほどいてから、作りはじめます。

言われた通りのものを納めて「ご要望通りです」と言うのは、簡単です。でも、それでは現場は変わりません。あなたが本当に困っていることを掴んで、解決してくれる形にする。それを、私たちの責任だと思っています。

よくあるご質問

要望を伝えても「その通りには作らない」なら、こちらの希望は反映されないのですか。
反映しないわけではありません。私たちは、いただいた要望をまず出発点として受け止め、その奥にある本当に困っていることを、質問を重ねて一緒に確かめます。そのうえで、ご要望どおりのほうが良ければそのまま作りますし、別の形のほうが効くと判断したときは提案します。最後に決めるのはお客様で、私たちは選べる材料をそろえる側です。希望を無視するのではなく、希望の奥にあるものまで拾うための進め方だと考えています。
本当の困りごとを掴む工程には、どれくらいの期間がかかりますか。
現場の規模や関わる人数によりますが、まず二週間から一か月ほどかけて、誰が何に困っているのかを聞き取ります。この工程を飛ばして急いで作ると、完成間際に「違う」と言われ、かえって時間を失います。私たちは、ここを省くほうが結局は遠回りになると考えています。だから最初のすり合わせは、開発とは別の追加費用ではなく、提案の一部として組み込んでいます。
掴む力は代表一人に頼っていませんか。担当者が変わっても同じように進みますか。
一人に依存しないようにしています。要望の奥をほどく進め方をチームで共有し、誰が担当しても同じ視点で現場に入れるようにしてきました。掴んだ内容は記録に残すので、途中で担当が変わっても、何をどう掴んだのかを引き継げます。掴む力を私個人の勘のままにしないことが、私たち自身のこだわりです。
掴んだつもりでも、結局ずれてしまったらどうするのですか。
完成してから違いに気づくのではなく、途中で何度も認識を照らし合わせ、早い段階でずれを見つけられるようにしています。それでも取り違えたときは、なぜ掴み違えたのかをお客様と一緒に振り返り、作り直しの負担を一方的にお客様へ回すことはしません。ご要望どおりに作りました、と言って責任を相手に残す進め方をしないと決めているからです。掴み違いは、私たちの側の課題として引き受けます。

技術は真似できる
定着させるノウハウが、弊社の強みです。

Q1 / 4あと 4 問

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