順調なときほど、危ないと思った
売上が順調なのに、なぜ危ないと感じるのか? 独立三年で一千万円を超えた売上の大半が運だったと気づいた私が、品質管理で身につけた「合否より中身を見る」目で、順調なときこそ見直す理由を書きます。

数字は順調だった。でも、怖かった
売上が順調に伸びていても、私は手放しでは喜びません。良い数字ほど、何で立っているのかを先に確かめたくなるからです。個人事業主として独立してから、三年が経っていました。良いお客様に恵まれ、継続の依頼をいただき、売上は一千万円を超えていました。数字だけ見れば、順調です。
でも、そのころ私が感じていたのは、安心ではありませんでした。「このままではまずい」。順調なはずなのに、怖かったのです。
数字は、良かったのです。でも、その多くは運でした。
その売上は、運で立っていた
正直に言うと、一千万円という売上は、私の実力だけで作ったものではありません。
当時はコロナ禍で、リモートワークが一気に当たり前になりました。私はそのころAppSheetというノーコードのツールを知り、AIがまだ来る前に「これからはノーコードが来る」と思って動きました。それが、多少なりとも当たったのです。
ただ、計算してやったことではありません。直感で、そう思っただけです。時代の波に、たまたま乗れた。ポジショニングが良かったのは確かですが、大部分は運でした。
一千万でも、高揚感はなかった
私は、自分の実力で立てたと言い切れない数字に、達成感を持てませんでした。一千万円を、この先も守り続けられる保証が、どこにもなかったからです。サラリーマンだったころの自分からすれば、一千万という数字は、素直にすごいと思えるものです。でも、そこにあったのは高揚感ではなく、怖さでした。
安定は、いつのまにか人を甘やかします。「今が最高だ」「もう十分だ」と思わせる。とくに、その安定が運で成り立っているときほど、油断は静かに効いてきます。運は、いつか切れるからです。
私は、リスクを減らす側の人間です
私は、浮かれているときに下す判断を、自分でいちばん信用していません。よく、良い経営者はリスクを取れると言われます。でも私は、基本的にリスクを減らすことを考えてしまいます。
「動かないことこそリスクだ」。経営者の方が、よくそう言います。一理あると思います。ただ、浮かれた状態で動くのと、落ち着いた状態で動くのとでは、失敗の起きる確率が大きく変わる気がするのです。
私は調子に乗って、うまくいったためしがありません。だから、調子に乗りはじめたら——つまり、向上を止めて甘えはじめたら——まず自分を落ち着かせるようにしています。
見直すのは、「何もないとき」です
見直しは、良いときでも悪いときでもなく、「何もないとき」にやるのが大事だと思っています。
悪いときは、落ち着いていません。慌てているときの判断は、たいてい鈍る。そして実は、良いときも同じで、浮ついています。だから、平常時に見直しておく。何かが起きたときは、その「平常時に見直したもの」に照らして判断する。それでようやく、判断がぶれません。
良いときには、なぜ良いのかを調べます。悪い原因を探すのは誰でもやりますが、良い理由は、意外と誰も見ていないのです。
これは、品質管理の考え方です
順調に見えるときこそ中身を見るという見方は、品質管理から来ています。品質管理とは、合格か不合格かを判定する仕事ではありません。品質を測る数字が、どう推移しているか。そのばらつきは、どうなっているか。それを見続ける仕事です。
たとえば、80点が合格だとします。同じ「平均80点」でも、100点と60点が混じった80点と、75点から85点に収まった80点とでは、意味がまるで違います。前者は、いつ60点を割ってもおかしくない。後者は、安定しています。
合否だけを見ていたら、この違いは見えません。順調に見えるときこそ、中身がどうなっているかを見る。特別なことではありません。ただ、これを日常的に続けられて初めて、貯めたデータに意味が出てきます。
だから、次の一歩は「学ぶ」だった
安定を手放したくて動いたのではありません。むしろ逆で、安定を続けたいからこそ、次の動きを選びました。
選んだのは、一つの法人に、取締役として参画することです。運で得た売上の上に安住するのではなく、運がなくても立てる力と、経営そのものを学ぶためでした。
お客様と作りたい安定も、同じです
私たちがお客様と作りたい安定も、「今が最高だ」で止まる安定ではありません。順調なときにこそ、中身を見直せる。その状態を、現場と一緒に持ち続けることです。
作って終わりにせず、良いときも悪いときも見られる土台を、現場に残す。その動きがある限り、安心は続きます。それが、私たちの考える安定です。
よくあるご質問
- 順調なときに中身を見直す仕組みを入れるのに、どれくらいの費用と期間がかかりますか。
- 私たちはまず、いまお客様の現場で何が回っているかを二週間ほど読み、どの数字を見続けるべきかを決めます。最初に一律の金額を出さないのは、追うべき数字が業務ごとに違うからです。見直しの仕組みは、新しいツールを足すのではなく、いま使っているシステムの中に組み込むので、費用は大きくなりません。入れた後は、月々の利用料より、順調なときに中身を見る習慣そのものが中心になります。
- うちには数字を毎日見られる担当がいません。それでも順調なときの見直しはできますか。
- できます。私たちは、専任の担当を置いて毎日数字を見張ってください、とはお願いしません。ばらつきや傾向のほうから見えてくるように仕組みを組むので、こちらから探しに行かなくても異変が届きます。合格か不合格かが入れ替わる前に、数字の揺れが先に見えるようにしておくのが狙いです。人数の少ない現場でも、順調なときに中身を見る習慣は保てます。
- 「動かないことこそリスク」とも言います。順調なときまで見直していたら、動きが遅くなりませんか。
- 私たちは、慎重であることと、動きを止めることを別のものと考えています。順調なときに中身を見ておく相手は、成長そのものではなく、判断を鈍らせる浮つきのほうです。だから、いざ動くと決めた場面では、むしろ迷いが減って速くなります。遅くて高くつくのは、浮かれたまま、あるいは慌てたまま突っ込んだ判断のほうだと、私たちは何度も見てきました。動きを止めるための見直しではなく、動くべきときに深呼吸できる余白をつくる見直しです。
- 自分の会社の数字が「安定した状態」か「いつ崩れてもおかしくない状態」か、どこから見始めればいいですか。
- まず、いますでに記録している数字を一つ選び、最新の値だけでなく、この数か月の推移とばらつきを並べて見るところから始めます。私たちは、平均だけでなく散らばりが見える形に整えるお手伝いをします。最初は一つの指標で十分で、見方に慣れてから対象を広げます。どこからを「揺れている」とみなすかの線引きは、お客様の業務に合わせて一緒に決めます。